香港 Hong Kong
香港中国情報源

フリーランスライター 深川耕字

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■ 香港誌「前哨」編集長 劉達文氏に聞く<上>

記載日:2014.00.00

民主派の道路占拠
中国政府は流血避け催涙弾“指示”
予想外の長期化に焦りも

香港行政長官選挙の普通選挙改革をめぐり、制度の民主化を要求する学生ら民主派が幹線道路の占拠デモを50日以上続け、香港警察はバリケードの一部撤去を開始することで再び強制排除に乗り出し、混乱している。香港の現状や台湾の政局、中国政府の動向について香港月刊政治誌「前哨」の劉達文(リュウ・ダーウェン)編集長に聞いた。
(聞き手・深川耕字、写真も)

 ――9月28日から香港で始まった「雨傘革命」を通した幹線道路占拠デモが持久戦から強制排除のトラブルへ拡大したのは、中国政府にとって予想外と言えるか。

劉達文 今回のデモはいろんな世代の不満が一機に爆発し、中国共産党も先行きが見えず、予想以上に複雑と見ている。香港は1989年の天安門事件以来、連綿として民主化運動が続いているが、天安門事件当時の民主化リーダーも、現在の学生団体リーダーも世代を超えて一体化した形だ。

 ――中国政府は1997年7月の香港返還以降、このような複雑な状況に直面するのは想定内だったのか。

 香港返還前の段階では中国が香港を完全統治するのは困難であるため、一国二制度の50年間という猶予期間の中で中国が香港の民主化レベルまで引き上げ、中国と香港が政治的にうまく融和するようにしていくというのが”小平の考え方だった。その本音を中国政府はおくびにも出さない。たとえて言えば、小学校の校長が複雑で高度な大学の総長になったようなものだ。香港は社会制度、政治経済、文明が中国本土とは異なっていて、現在も成長発展し続けている。本来、英領だった香港は台湾と連携して中国本土を民主化していくべきだったが、英中の駆け引きの中で中国に帰還し、中国政府が無理な融和を図ろうとしたことが複雑さの要因だ。

 ――「前哨」11月号では中国の習近平国家主席が香港の占拠デモに対して天安門事件のような流血の再来だけは避けよと指示したと報じているが、中国政府は香港の占拠デモについてどんな指示を出しているのか。

 香港、マカオ問題の総責任者は張徳江全国人民代表大会常務委員会委員長(国会議長に相当)だ。党内序列3位の張徳江氏は北朝鮮の金日成大学留学経験のある強硬派で武力行使も視野に入れたが、習近平国家主席が「流血は避けよ」と指示した。習主席が党内権力闘争とは直接関わらない香港問題で強硬手段を使わないのは、第二の”小平(天安門事件で武力鎮圧を指示)にだけはなりたくないということだ。父親である故・習仲勲元副首相が天安門事件での武力行使に否定的だった家系的背景もある。

 ――9月28日、香港の警官隊はデモ隊に対して87発の催涙弾を打ち込んで国際的な批判を浴びた。催涙弾を打ち込む指示を出したのは中国政府か、香港政府の状況判断からか。

 香港政府に催涙弾を独自判断で打ち込む勇気はないだろう。中央政府からの直接指示がなければ決断できない。警官隊の当初からの動きを見ても、中央政府からの即決即断で数千人規模のデモであれば逮捕拘束しながら、すぐに収束できると甘く考えていた。ところが学生らの家族、民主派支持の人々が学生たちを支援し始めて占拠エリアが5カ所まで広がり、警察は押さえ込むことができなくなった。

 ――警官隊が再度、催涙弾やそれ以上のものを使う可能性はあるか。

 そう簡単には使わない。唯一、暴動となったら使うだろう。商店を破壊したり、放火したり、略奪行為が発生するような事態だ。学生の動きを見れば、ありえないが、暴力団などが裏で動けば可能性はゼロではない。占拠デモに反対する親中派は暴力団を暗躍させながら封じ込めようとしている。

■ 香港誌「前哨」編集長 劉達文氏に聞く<中>

記載日:2014.00.00

民主派は持久戦の戦略転換を

 ――学生を中心とする今回の占拠デモは天安門事件で鎮圧された学生たちを支援する香港での民主化運動とどのような関わりがあるか。
 香港は英領時代の1989年、北京で天安門事件が発生すると、中国の民主化を求める学生たちを支援する運動が支連会(香港市民支援愛国民主運動連合会)を通し、香港大学や香港中文大学などの学生団体も協力してきた。

 7月から始まった香港の金融街・中環(セントラル)を平和裏に占拠して真の普通選挙改革を求めるオキュパイ・セントラル(和平占領中環)運動は、昨年3月、香港大学の戴耀廷副教授、香港中文大学の陳健民副教授、朱耀明牧師の3人が発起人となって結成され、香港の学生団体である香港大学生連合会(学連)、学民思潮なども加わり、準備が進められていった。

 支連会の故・司徒華主席(当時)を中心に天安門事件で弾圧された中国の学生を自発的に保護・支援する黄雀行動(民主化学生たちを中国内から西側諸国へ避難させる秘密組織)では朱耀明牧師は一番長く堅持した人物だ。学連や学民思潮も天安門事件で弾圧された中国の学生を支援するために発足した中国の民主化を求める学生団体だ。

 ――占拠デモを行っている学生団体、オキュパイ・セントラル運動の発起人3人、自主的に占拠している市民らで意思疎通や共闘はできるものなのか。

 学生団体とオキュパイ・セントラルの発起人たちは考え方や経験、思想背景が違うのでまとまるのは難しい。オキュパイ・セントラルの発起人らは大学副教授として大学の授業にもどり、学生らを後方支援する意向。民主派を支持するカトリック香港教区の陳日君枢機卿は学生たちは自宅へ帰れと理性的に主張している。民主派の香港紙「蘋果(りんご)日報」オーナーの黎智英ネクストメディア会長も早期解決を望んでいる。

 これに対し、学生団体代表は授業ボイコットしながら政府対話をロマンチックに理想化し、占拠を続ける。香港政府としては学連のみと対話する動きになり、繁華街・旺角(モンコック)では学生団体のコントロールも利かない急進派のデモ活動と化している。

 ――占拠デモは警官隊の強制排除が始まり、今後、どんな展開になると見通すか。

 何事も必ず終わる時が来るが、香港政府もデモ隊側も、ある段階までは持久戦が続くとみている。兵法の見方では学生側が幹線道路を占拠して居座るだけでは心身共に疲労困憊(こんぱい)するだけで一般市民はいずれ退却してしまう。中国政府は外国勢力の関与を批判しているが、それだけの資金が投じられたとしても、持久戦ではジリ貧状態になる。時間が経過するほどデモに反対する世論が高まってきているので戦略を変えていく必要があるだろう。

 ――ポルトガル領から中国に返還されたマカオは今年12月で返還15周年を迎える。香港の占拠デモがマカオに及ぼす影響はあるか。

 アジアの金融センターである香港と比べ、マカオは観光やカジノによる単一産業で発展しており、従来から中国の政治的影響力が強いので混乱することなく、比較的に穏便に普通選挙改革についても中央政府の意向に従う形で進んでいる。

■ 香港誌「前哨」編集長 劉達文氏に聞く<下>

記載日:2014.00.00

占拠デモ、台湾政局に影響

 ――香港の占拠デモは11月29日に投開票される台湾の統一地方選挙に影響を与えるか。台湾政局への影響をどう見るか。

 ケ小平が提唱した一国二制度の本当の狙いは台湾にあり、香港政局は当然、台湾に大きく影響する。台湾では中国が打診する一国二制度に対して支持するのは約1割で大多数は受け入れていない。香港の占拠デモが長期化することで台湾与党・国民党にはかなり不利に働く。台湾では「選挙で国民党を選べば台湾は香港になる」と国民党を揶揄(やゆ)するスローガンまで出ている。

 ――中国共産党規律検査委員会は双規処分で取り調べを続けている周永康・前政治局常務委員について、先月23日まで行われた中国共産党の重要会議「第18期中央委員会第4回総会(4中総会)」で最終処分の言及がなかった。処分はどうなるか。

 周永康氏は家族や親族に罪が及ばないことを条件に罪状を認める最終交渉に入り、党籍剥奪や懲役刑を受け入れる最終段階に入った。最終処分に関する言及がなかったのは、党規律検査委員会と周氏との間で罪状認否をめぐる交渉がこの段階では完全に煮詰まっていなかったためだ。周氏は薄煕来元重慶市党委書記(元政治局員)のように徹底して裁判で対抗し続けるスタンスとは違い、家族や親族に罪が及ばないことを交換条件に罪を認める態度に変わってきている。

 ――習近平政権としては取り調べが最終段階に来ている周永康氏に対して最終的にどう処断する見通しか。

 習近平政権としては周氏が習近平政権に対して完全屈服する形で穏便な決着となれば、腐敗の温床だった江沢民元国家主席を中心とする上海閥の政治力を削(そ)ぎ、権力基盤にプラスとなると判断している。

 江沢民元国家主席をトップとする上海閥にも政治的に大きな影響を与える結果になり、老いた大トラ(江沢民)自身への捜査は無理でも、その家族や傘下の取り締まりや処分は着々と進めることができると習近平政権は判断している。江沢民氏の長男・江綿恒上海科技大学長は最近は取り締まりを恐れ、企業経営者の立場を退いたり、利権を手放し始めている。江綿恒氏は投資コンサルタント会社である上海聯和投資有限公司の代表を務めてハイテク、自動車、航空業界に顧問として入り、巨額の利権を得てきたが、今年に入って顧問を辞め、一線を退いている。

 ――10月末、中国の改革派政治思想誌「炎黄春秋」の社長に胡耀邦・元中国共産党総書記の長男・胡徳平氏が就任した。その一方で昨年1月、メディアを管轄する広東省共産党委員会宣伝部が新年号を事前検閲した改革派の中国週刊紙「南方週末」は宣伝部の圧力を受け続けているが、中国の今後の言論統制についてどう見るか。

 悲観的には見ていない。「炎黄春秋」の社長に胡徳平氏が就任したのは党内改革派と保守派の権力闘争の中で決まったことだが習近平国家主席の直接指示ではない。胡徳平氏は全国政治協商会議(政協)常務委員でもあり、政治力は改革派として党内でもある程度あるので「炎黄春秋」は党内左派の圧力があっても継続していると見ている。広東省の伝統ある「南方週末」は党中央に大きなトラブルを起こし続けているわけではなく、党内でも社論を応援する勢力もあり、存続するだろう。

【劉達文】1952年、中国広東省東莞生まれ。東莞華僑中学から78年、恵陽師範科学学校(現・恵州大学)に入学し、中文系(国文科)、マスコミ学科を専攻。81年1月香港へ移住。同年3月、月刊誌「争鳴」で勤務。現在、香港月刊誌「前哨」の編集長。ペンネームは蘇立文、暁沖、羅汝佳など。






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● プロフィール ●

深川耕字 (ふかがわ・こうじ)

福岡県生まれ。筑波大学第一学群人文学類卒業後、新聞記者を経てフリーランスライター。1997年から10年以上、香港駐在し、中国各地や台湾、マカオなど頻繁に現地取材。一般社団法人・全国教育問題協議会理事。

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